第9回 角川文庫キャラクター小説大賞
受賞の言葉・作品あらすじ
優秀賞&読者賞
「王は銀翅の夢を見る」 佐木真紘
《あらすじ》
名家の娘・莉恩は、望まぬ縁談を断るため、文官の登用試験を受けることに。おとなしく人見知りな性格の莉恩だが、図らずも試験を通過し、信簡局と呼ばれる場所で働き始める。そこは官吏の私信を検閲する部署で、莉恩は一通の私信に、言葉遊びの暗号が込められていることに気づく。それを解読すると、そこには国への謀反を示すメッセージが浮かび上がった。不穏なものを感じた莉恩と同僚の文官・劉彗は差出人の元へ向かうが、そこにあったのは惨殺された死体だった――。内気な文官少女×過去に傷を抱えた青年文官のバディが国家存亡の危機に立ち向かう!
受賞の言葉
このたび優秀賞と読者賞という栄誉ある二賞を賜りました。
選考委員の先生方、編集部のみなさま、そして応援してくださったみなさまに、深く感謝申し上げます。
本作の執筆を始めたのは2021年5月のことでした。当初は世界設定とぼんやりしたプロットしかなく、勢いだけで書き始めたもののすぐさま話は立ち往生。
そこからは執筆と中断を繰り返す日々で、まるで終わりの見えない長い道のりを手探りで進んでいるような、不安な気持ちでいっぱいだったことを覚えています。
面白い話を書きたい。その一心で試行錯誤を重ねるうち、次第に面白さとは一体何だろうと考えるようになりました。
私が心惹かれるのは、必死に生きる人の姿です。世の中には多くの人がいて、それぞれに自己の主張があり、信念と目的を持って生きています。各々が正義だと信じる思いが入り乱れることで、計略や策略、ときにはサスペンスが生まれ、それが面白さにつながるのではないか……。
そこからは登場人物たちの人生についてひたすら深掘りを続け、それにともない主人公の人生はより波乱万丈に。執筆開始から1年後の2022年5月。ようやく辿りついた最終話は、自分でも予想していなかった意外な結末を迎えました。
そんな本作を応募した結果、こうして多くのみなさまのお目に留まる貴重な機会をいただけましたことに、改めて心よりお礼申し上げます。
『カクヨム』テーマ賞(西洋ファンタジー×異能)
「古城ホテルの精霊師」 深見アキ
《あらすじ》
亡き祖父の遺した古城ホテルでコンシェルジュとして働く少女・オリビア。霊感体質が悩みの彼女は、霊が見えないふりをしていた。そんなある日、古城ホテルに《精霊師》を名乗る謎めいた美貌の青年・ルイスが現れる。
「君の祖父から“オリビアを頼む”と手紙が届いた」
そんなことを言うルイスは、ホテルにしばらく滞在することに。だが、霊を極力避けていたオリビアとは対照的に、霊がらみのトラブルに積極的にかかわるルイスにオリビアは振り回されて……!?
一生懸命な新米コンシェルジュ×マイペースで浮世離れした精霊師の青年が贈る、ちょっと不思議なホテルのお仕事物語!
受賞の言葉
今回新設されました『カクヨム』テーマ賞を賜りました。この度は素晴らしい賞をいただきましてありがとうございます。
西洋ファンタジー×異能という、どちらも大好きなテーマを選択させていただきました。
私は海外の美しい風景写真を眺めるのが好きです。テーマパークに行っても城や砦や船なんかを見てしまいますし、ゲームの中のRPG世界でも街並みを見るのが好きです。世界遺産の大聖堂も、傷んだ木の質感まで再現された船着き場も、虚構世界のインテリアも、見ているだけでいくらでも空想が膨らんで最高です(こういうのは何フェチと称したらいいのでしょう?)。
そんなわけで、一度取り扱ってみたかった古城ホテルという舞台を選び、霊が「見えて」しまうコンシェルジュヒロインと、マイペースだけれど繊細なところもあるイケメン精霊師のお話が生まれました。
まだまだ未熟な点が多くある作品です。もっともっと面白くなるように改稿を重ね、皆様に「こんな城に泊まってみたい」と思ってもらえるような作品になるよう精進していきたいと思います。
改めて素敵な機会を与えていただき、本当にありがとうございました。
2023年12月01日
選評
「もっと小説としての楽しさを」 澤村御影
今回は、残念ながら大賞に推せる作品がありませんでした。全体的な傾向として気になったのは、描写不足と設定の後出しです。書き手の頭の中にある世界や物語がどれだけ魅力的であろうとも、それを文章で表現できなければ読み手には伝わりませんし、そこが作家の腕の見せどころというものです。キャラクターについても、「優しい人」「周りと上手くやれない性格」とラベルを貼って済ませるのではなく、エピソードにして描いてほしいと何度も思いました。それが小説としての楽しさや読ませる力につながるはずです。設定の後出しについては、『カクヨム』からの応募作に特に顕著な傾向だったので、連載形式で書いているせいかなという気もしました。書きながら物語を構築していくタイプの人は、一度設定やキャラを全部作り込んでから書いてみるといいかもしれません。
優秀賞&読者賞となった「王は銀翅の夢を見る」は独特な文体にやや読みづらさを覚えたものの、エンタメとしての完成度は候補作の中で抜群に高く、楽しんで読めました。ヒロインを取り巻く男性キャラ二人も良かったと思います。しかし、大事な設定が全て後出しになっていることや、ファンタジー要素が途中から急に出てくるように見えるところが引っかかり、大賞にまでは推せませんでした。世界設定の提示の仕方を見直せば、もっと面白くなるはず!
「夜叉の末裔」は、実はループしていたという展開は面白かったと思います。でも、ループものの醍醐味であるはずの「やり直し」があまり機能していないことと、各設定の甘さが気になりました。解決しない謎が多すぎたのも残念な点です。
「魂を売る黒い天使と呪いの石」は、「燃やすこともできず、勝手に戻ってきてしまう死体」というアイデアは話のつかみとして大変面白かったのですが、全体的に描写も説明も足りず、お話に入り込むことができませんでした。
「天狗先生、二度目の結婚」は可愛らしいお話で、夫婦の暮らしぶりなどはよく描けていましたが、キャラや物語に一貫性が感じられないところがありました。元の夫が抱えていた秘密についても納得がいかず……悪人を作らないのはキャラクター小説の手法としてはありですが、読み手の期待を裏切りすぎるのはまずいです。
「すべての作品に拍手を」 望月麻衣
最初に、角川文庫キャラクター小説大賞、優秀賞&読者賞の佐木真紘さん、『カクヨム』テーマ賞の深見アキさん、おめでとうございます。最終選考に残ったすべての作品に大きな拍手を贈りたいです。総数421作品の中から選ばれたのですから、胸を張って誇れる素晴らしいことだと思います。
今回『カクヨム』からの直接応募作が多かったのですが、選考委員からは作品評として「魅力的だけど、まとまっていない」という意見が多く出ました。私もWEB出身なので分かるのですが、書きたいことを書いて綿密な推敲をしないまま応募となってしまうと、テーマや伝えたいことがどうしてもぼんやりすることがあります。『カクヨム』から応募する場合も、WEB連載作をそのまま出すのではなく、紙の本になるのを想定し、10万文字くらいで物語を作ることを意識していただけたらと思いました。
優秀賞&読者賞の「王は銀翅の夢を見る」佐木真紘さん
無自覚な天才少女が文官の試験を受けるところから始まる中華王宮系の物語。この作品は、ぎゅっとエンタメが詰め込まれていました。先が気になるわくわくさせる展開、最後のカタルシスまでとても素晴らしかったです。
タイトルは、最後まで読んだら理解できるのですが、初めて見た方にはどんな話か想像させることが難しいので、こちらをサブタイトルに据えて、もっと内容を想起させるメインタイトルにできたら、と勝手ながら思いました。
「夜叉の末裔」沖田弥子さん
応募作品の中で一番キャラが立っていると感じました。夜叉の末裔、八部衆、タロットカードと、道具立てがとても魅力的。ですが、それらのすべてがしっかり使われていないのが残念でした。たとえば主人公が未来予知の力を使う時は、せっかくなのでタロットカードを使ってほしかったですし、タロットの説明ももっとほしかったです。さらに章タイトルにタロットカードの名前が入り、カードと関連のある事件にすると、さらに魅力的になりそうです。ひとつひとつの事件にもうひと捻り、そこにさらなる驚きがあると、人気作品になると思いました。
「魂を売る黒い天使と呪いの石」乃木ちひろさん
灰の街ノールデンを舞台に、主人公のルゥと「黒い天使」の異名を取るまさに天使のような外見をしている火葬場のオーナー、フランを取り巻く物語。まるでアニメを観るように映像が浮かんだ作品で、私はとても魅力的だと思いました。今回受賞には至りませんでしたが、個人的にはコミカライズしてほしい作品だと感じています。
「天狗先生、二度目の結婚」平本りこさん
天狗が存在する大正時代風の世界を舞台にした異類婚姻譚。天狗の夫とふんわりとした妻のやりとりが可愛らしく、この夫婦を応援したいという気持ちを抱かせるような素敵な作品でした。ですが、この作品を文庫本にと考えた場合、長すぎるのが気になりました。中盤になって「二度目の結婚」が天狗先生だけではなく、妻もそうだったかもしれないことが分かるのですが、そこでようやく『えっ、そうだったの?』と強く前のめりになる要素だったので、このエピソードをもう少し早い段階で出してもらえたら、もっと引き締まったように思えます。
『カクヨム』テーマ賞を受賞した深見アキさんの作品は未読なので、これから拝読するのが楽しみです。タイトルが最高に良いと思ったので、期待が高まっています。
受賞作品、そして惜しくも受賞には至らなかった作品も、それぞれ個性的で魅力がありました。
4作品、すべてに拍手を贈りたいです。
本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。
2023年12月01日
受賞作品発表
2023年10月19日(木)に第9回 角川文庫キャラクター小説大賞(主催=株式会社KADOKAWA)の選考会が行われ、選考委員の審査により、下記のように決定いたしました。
受賞作品
優秀賞/読者賞(優秀賞 賞金30万円/読者賞 賞金10万円)
「王は銀翅の夢を見る」佐木真紘(さき・まひろ)
選考委員:澤村御影(作家)/望月麻衣(作家)/角川文庫キャラクター文芸編集部
第9回 角川文庫キャラクター小説大賞は、421作品の応募があり、第1次選考(49作品通過)、第2次選考(4作品通過)を経た最終候補の中から、受賞作が決定いたしました。
また、編集部での審査の結果、下記作品を『カクヨム』テーマ賞に決定いたします。
『カクヨム』テーマ賞(賞金10万円)
「古城ホテルの精霊師」深見アキ(ふかみ・あき) 応募テーマ:西洋ファンタジー×異能
『カクヨム』テーマ賞は『カクヨム』からの応募作品のうち、青春ホラー/西洋ファンタジー/ブロマンス/異能/溺愛 から2つ以上のテーマタグを組み合わせて応募された全作品より、編集部の選考を経て決定いたしました。
各受賞作品は角川文庫より2024年春以降に刊行予定です。
2023年10月20日
2次選考結果発表
第9回 角川文庫キャラクター小説大賞は総数421作のご応募をいただき、1次選考通過作品49作より、厳正な審査の結果、下記4作品を最終候補作として決定いたしました。
作品名一覧
◆沖田弥子「夜叉の末裔」
◆乃木ちひろ「魂を売る黒い天使と呪いの石」
◆佐木真紘「王は銀翅の夢を見る」
◆平本りこ「天狗先生、二度目の結婚」
最終選考会は、2023年10月下旬に行われる予定です。選考結果は角川文庫キャラクター小説大賞サイト上で発表いたします。
なお、『カクヨム』テーマ賞については、編集部にて別途選考を行い、最終選考結果とともに発表いたします。
『カクヨム』テーマ賞に応募中の方は、引き続き応募用のタグを外さずにお待ちいただきますようお願いいたします。
2023年9月19日
1次選考結果発表
第9回 角川文庫キャラクター小説大賞は総数421作のご応募をいただき、第1次選考通過作49作を決定いたしました。
第2次選考は、2023年8月下旬に行われます。選考結果は、角川文庫キャラクター小説大賞サイト上で発表いたします。
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- 沖田弥子
- 夜叉の末裔
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- ことさわみ
- 5月の緑は嫌いだ
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- 芭奈瀬エル
- 幽霊が苦手な「無職騎士」は、おばけ王女の頼みを断れない!
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- 青本明子
- 祟り、呪い鎮めます
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- 水無悠理
- ココの時間商
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- 冬野七都
- 落花は還らない
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- うさみかずと
- 善かれ悪かれ
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- 沢渡奈々子
- 人間界でのお悩み解決します~異類生活支援案内所~
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- 桃木ゆう
- みならいアサシン
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- 垂池蘭
- ヴィクトリアン・トラベラーは妖怪がお好き?
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- 鳴海
- スポットライトを浴びないと、輝けない僕たちは
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- 秋春渉
- あまい不死者のおとぎ話
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- 橘花やよい
- 豆腐小僧とぬらりひょん お江戸妖怪事件簿
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- 中村なっちゃん
- Love・Clot
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- 武燈ラテ
- ぼくのふつうが剝がれる日
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- 狗柳星那
- 三千世界の鵺を殺し、君と蕚で眠りたい。
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- 深見アキ
- 古城ホテルの精霊師
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- 佐竹めぐる
- 天使を屠る~天使が現れる迷宮~
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- 荘出モナイ
- 水中
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- 雨傘ヒョウゴ
- 手芸喫茶『自由時間』へようこそ ~編み物は、幸せの桜色~
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- 鴻月麻
- 愛を伝える
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- 乃木ちひろ
- 魂を売る黒い天使と呪いの石
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- babibu
- 求仙の門下生 〜仙人修行中の【平凡で目立たない弟子】と【スパダリな半妖の兄弟子】は、魑魅魍魎を退治をして【残念美人な師匠】の破門を回避する!〜
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- あまくにみか
- 花時雨の魔女の雨奇晴好
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- カラーリーフ
- 眠りの巫女と野良狐
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- 鷲晴日
- 暁に来し人よ
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- 沙崎あやし
- 青い光のエルツ―家出王女は世界を革命したい―
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- 茶野森かのこ
- 瀬々市、宵ノ三番地
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- 佐武ろく
- 狐の暇乞い
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- 佐武ろく
- 吉原遊郭一の花魁は恋をした
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- 石原なお
- 毒姫後宮伝記
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- 喜楽寛々斎
- 呪われ信蔵の大江戸奔走記~忍と拝み屋と怪異の顛末~
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- そうすみす
- 極東のアンブローズ
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- 黒瀬木綿希
- 筆と踊る
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- 小花衣いろは
- お酒と和菓子でおもてなし? ~鬼の次期頭首様は誑し上手~
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- 佐木真紘
- 王は銀翅の夢を見る
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- 陽子
- 赤釵伝
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- 明日乱
- 隠儺咒アナーキー
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- 井ノ下功
- 逆位置のコーヒー
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- 悠井すみれ
- 薄雲花魁 謎解き座敷
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- 関川二尋
- 賢者の手
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- 桂真琴
- ASHURA〜旅立ちの章 箱根の章〜
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- 蜜柑桜
- 天空の標
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- 橘紫綺
- 天邪鬼の帰る場所
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- 植原翠
- 狐の呼坂
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- 鈴木しぐれ
- 毒小町、宮中にめぐり逢ふ
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- シュリ
- 蜘蛛の塔
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- 薄紅サクラ
- 王国戦記~不死鳥の乙女は蒼空を舞う~ 終焉の始まり編
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- 平本りこ
- 天狗先生、二度目の結婚
2023年7月24日