第5回 角川文庫キャラクター小説大賞
大賞『海棠弁護士の事件記録 消えた絵画と死者の声』(雨宮周著、「海棠弁護士の事件記録」を改題)が2020年3月24日に、読者賞『毒母の息子カフェ』(尾道理子著)が2020年4月24日に、優秀賞『鬼恋綺譚 流浪の鬼と宿命の姫』(沙川りさ著、「隙間の棲人‐異説・播州皿屋敷‐」を改題)が2020年5月22日に角川文庫より発売!!
大賞受賞者
大賞(賞金150万円)
『海棠弁護士の事件記録』雨宮周(あまみや・あまね)
《あらすじ》
海棠忍の弁護士事務所には、15歳の少女がわがもの顔で居座っている。海棠が後見人になったばかりのその少女・黒澤瑞葉は、大人っぽいのに、事件に首をつっこみたがる問題児で……? 鈍感弁護士と天才少女の凸凹コンビが事件に挑む!
受賞の言葉
この度は素晴らしい賞にお選びいただき、まことにありがとうございます。選考に関わったすべての方に心より御礼申し上げます。
私が作家を志したのは、御多分に漏れず、本を読むのが好きだったからに他なりません。眼精疲労にガンガン痛む頭をおさえながら「この章だけ、この章だけ読み終えたら寝よう」と自分に言い聞かせつつ、ほとんど徹夜でページをめくり続けたり、登場人物の悲劇的な死に一日だらだら落ち込んだり、「如何にすれば彼らは幸せになれたのか」を真剣に検討し、脳内で無理やりハッピーエンドに改変してようやくひと息ついたり、本好きが一度は通る道をひと通り経験したのちに、いつしか自分も物語を仕掛ける側になってみたいと願うようになりました。
誰かに自分の作った物語で一喜一憂してほしい、読み終えたあとにああ面白かったと思ってほしい、そんな思いに駆られて書き始めたはいいものの、自分が書きたいものがなんなのか、そして書けるものはなんなのかを把握するまで、試行錯誤の日々でした。
それでもようやく自分なりに「これだ」と感じて作り上げた作品で栄えある賞をいただき、作家としてのスタート地点に立たせていただいたことは、感謝の念に堪えません。
改めて、本当にありがとうございました。
担当編集より一言
社内選考で1文目を読んだ瞬間、「なんだこの洗練された文章は!」と衝撃が走りました。あとは類まれな法律の知識とストーリーテリングに翻弄されるように読み進め、気づけば担当に。読者の皆さんにこの作品をお届けできることが幸せです。
主人公の海棠と、彼の後見を受けている瑞葉は、年齢の差を感じさせず、軽口をたたき合う関係です。仕事は仕事、依頼されたことだけやればいいという海棠を、飄々とした瑞葉がおもしろ半分に焚きつけているように見えますが……。二人の本当の気持ち、ぜひ読んで確かめてくださいね。
優秀賞(30万円)
『隙間の棲人‐異説・播州皿屋敷‐』沙川りさ(すなかわ・りさ)
《あらすじ》
薬師・文梧と白皙の青年・主水は、旅の最中、子を喪い悲しむ「小寺人」の女に出会う。30年前、平穏だったこの地は一変した。突然、青山の民が小寺の民・小寺人を襲い、血を吸い尽くして殺すようになったのだ――。ある日2人は、1人の少女を助ける。彼女はどうやら青山と小寺の秘密を握っているようで!?
受賞の言葉
このたびは素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。選考に携わられたすべての皆さまに篤くお礼申し上げます。
私がこの作品を書き上げたのは、実は十年も前になります。
当時、私はケーブルテレビ局のアナウンサーでした。夕方の情報番組でニュースを読んだり、現地リポートしたりする毎日。番組内には、市内で行われるイベントの告知コーナーもあり、その原稿作成も私の役割でした。
局に日々たくさん届くイベントのチラシに目を通し原稿を書く中で、ある日偶然目に留まったのが、とある日本美術の展示会のチラシに掲載されていた、一人の女性の幽霊が描かれた日本画でした。
傍らの説明文には『播州皿屋敷』の文字が。
『播州』? 『番町』じゃなくて? 皿屋敷ってあの「お皿が一枚、二枚……一枚足りない、うらめしや〜」ってやつだよね……? と、その程度の知識しかなかった私。
収録後すぐに『播州皿屋敷』について調べてみて驚きました。なんとあの有名な『お菊さん』が、私がイメージしていたものよりも随分かっこいいのです。ただの幽霊かと思いきや、言ってみれば女スパイのよう。
ぜひ私も、女性がかっこいいと思う『お菊さん』を書いてみたい。
そうして筆を執ったのが、この『隙間の棲人‐異説・播州皿屋敷‐』という作品です。
小説家になるという夢が叶うまでにはとても長い時間がかかりましたが、前述のことからも、通ってきたすべての道は無駄ではなかったんだな、としみじみと感じております。
ご縁が繋がって、今ようやくスタート地点に立たせて頂けました。そのことに心より感謝し、これからも精進してまいります。
今後とも何卒、よろしくお願い申し上げます。
担当編集より一言
選考過程でこの作品を読んだ時、真っ先に感じたのはとても強い「熱」です。その熱に浮かされるまま、ラストまで一気に読みました。この小説は、2つの領の血なまぐさい争いの渦中、出逢ってしまった男女の悲恋を描いた「和製ロミオとジュリエット」とでもいうような、苦さとロマンのある物語です。登場人物たちも魅力的で、何といってもみんな格好良い! 己の出生、肉親との確執――我々と同じままならなさを抱えながら、それでも前を向く彼らの姿は本当に美しい。胸を張って世に送り出せる作品です。
読者賞(書店員からなるモニター審査員によって、もっとも多く支持された作品に与えられます)
『毒母の息子カフェ』尾道理子(おのみち・りこ)
《あらすじ》
大学受験に失敗した雅玖は、ある日偶然『DOKUBO NO MUSUKO CAFE』を訪れる。潔癖症、加害妄想、広所恐怖症を持つ店員達と雅玖には意外な共通点があった。それは「毒母の息子」であること、そして「イケメン」であること。現実から逃げる様にカフェでの住み込みバイトを始めた雅玖が見つけた、亡き母の本当の姿とは――。
受賞の言葉
このたびは読者賞という大変光栄な素晴らしい賞をいただきありがとうございます。そして選考に携わられた皆様に篤くお礼申し上げます。
私の執筆は、世間で話題になっているニュースや噂などで心動かされる出来事を耳にして始まることが多いです。心の中に残るもやもやをどこかに吐き出してしまいたいという衝動から何か書かずにいられないという、むしろ病気のようなものではないかと思っています。
この『毒母の息子カフェ』もまた、とあるニュースに非常にショックを受け、突き上げるようにして書いた原本のような小説があります。でも、その原本は自分の書きたい欲求にのみ従った、読み人おらずの作品となってしまいました。ですが思い入れのある作品でもあり、このままパソコンの肥やしにしてしまいたくないという思いから『キャラクター小説』というジャンルに合わせて書き換えてみることにしました。こうして出来上がった小説がこのように評価いただけたことがとても嬉しいです。
毒母の息子などとタイトルについていると、重苦しい小説を想像されるかもしれませんが、登場キャラはほぼ全員ボケ役で、主人公一人がツッコミ役というお笑い要素の強い作品ではないかと思います。
まだまだ未熟な点は多々あると思いますが、これから改稿を重ね皆様に楽しんでいただける作品に仕上げるように全力で努力したいと思います。
改めて、本当にありがとうございました。
担当編集より一言
こんな店員たちがいるカフェがあったら、行ってみたい!と思うくらい、みんな魅力的で、個性の強いキャラクターがたくさん登場します。そして彼らは、家族でも友達でもないけれど、ただ時間を共有する仲で、それぞれにできることを日々頑張りながら、少しずつ成長していきます。蘭丸の珈琲、瀬戸ちゃんのお料理、太一のデザート、そして雅玖と覇人さんの笑顔が待っているので、ぜひ毒母の息子カフェにいらしてください!
選評
小説を楽しませる力に溢れていた 小路幸也
『海棠弁護士の事件記録』は、まず何よりも犯罪事件としては非常に地味な窃盗というものを事件のメインにしているのにも関わらず、自然と読ませる展開になっていくところに魅力を感じた。主人公たちのキャラの魅力づけにもう半歩が必要と思ったが、素地はまったく悪くない。化粧ひとつで普通の子がまるでアイドルのように可愛くなれるはずだ。もしもこれをこのままドラマにしたなら、キャスティングの妙だけでとてもおもしろいドラマになるだろう。専門知識の豊富さをきっちり読ませる物語に仕立て上げる力量に唸らされた。
『隙間の棲人‐異説・播州皿屋敷‐』は、筆力は間違いなくあるし、物語を練り上げる力もあるが、少し捻りを濃くしすぎた感はある。ビーフシチューにカレールーを入れてみました、という感じで味が複雑過ぎて逆にピンと来ない味になってしまったのは課題だと思う。とはいえ、繰り返すけど、筆力は相当にある。誰もが知る怪談を効果的に使ったのも良かった。
『涼国賢妃伝 〜路傍の花でも、花は花〜』は、中華ファンタジーの約束事に乗っかってきっちりと構成した力は感じたし、主人公の魅力や個性が徐々に花開き愛すべきキャラになっていくのも楽しかった。しかし、自分の作り上げた展開にただ乗っかって書き上げてしまったような雰囲気があるのが残念だった。
『毒母の息子カフェ』は、まず舞台設定が何のためにあったのかが疑問に思ってしまった。もしもマンガで読ませてもらったのならば、視覚的にもう少し納得できたけれども、小説として読むとどうしても主人公の家族関係が上滑りしてしまう。そこをもっと小説内リアリティを上げておけば、小説としても完成度が高くなったのにと惜しまれる。
第5回角川文庫キャラクター小説大賞によせて 高里椎奈
『隙間の棲人‐異説・播州皿屋敷‐』 世界観が作り込んであって、文章も読みやすかったです。意外な事実が続いてドキドキしましたが、最終的に一周して素直な真相に落ち着いてしまったところだけ、根底にあるおどろおどろしさとの兼ね合いで考えたらもったいない気もしました。
『毒母の息子カフェ』 登場人物や舞台は明るく軽妙で、キャラクター小説らしいと思いました。反面、作中のテーマの扱いも軽く感じられて不安になりました。この作品に限りませんが、現実に存在する繊細な問題は、実際にそれに関わる様々な立場の人達を悪意なく傷つける恐れを内包します。突き詰めて、掘り下げて、現実とフィクションの最適なバランスを見つけて頂ければ幸いです。
『海棠弁護士の事件記録』 題材の設定と何が書きたいのか明瞭で、それらをきちんと伝えることが出来ていて、このまま本になってもいいのではないかなと思う一作でした。作品に対して丁寧に真摯に向き合っている印象を受けて、読んでいて心地よかったです。
『涼国賢妃伝 〜路傍の花でも、花は花〜』 御自身の世界をお持ちで、楽しそうに書いているように感じました。ここでしか見られない飛び抜けた何かを表現出来たら、きっと完全な独自の世界になると思います。
こちらに書かせて頂いた感想は御応募時の作品のお話になりますので、本として刊行される頃には、また、次の作品を書かれる時には、更に面白く、よい形になっている事と思います。
素敵な作品の数々を読ませて頂いてありがとうございました。
受賞作品発表
2019年9月26日(木)に第5回 角川文庫キャラクター小説大賞(主催=株式会社KADOKAWA)の選考会が行われ、選考委員の審査により、下記のように決定いたしました。
受賞作品
大賞(賞金150万円)
『海棠弁護士の事件記録』雨宮周(あまみや・あまね)
優秀賞(30万円)
『隙間の棲人‐異説・播州皿屋敷‐』沙川りさ(すなかわ・りさ)
読者賞
『毒母の息子カフェ』尾道理子(おのみち・りこ)
選考委員:小路幸也(作家)/高里椎奈(作家)/キャラクター文芸編集部
第5回 角川文庫キャラクター小説大賞は、504作品の応募があり、第1次選考(42作品通過)、第2次選考(4作品通過)を経た最終候補の中から、受賞作が決定いたしました。受賞作品は角川文庫より2020年春ごろに刊行予定です。
2次選考結果発表
第5回 角川文庫キャラクター小説大賞は総数504作のご応募をいただきました。1次選考通過作品42作より、厳正な審査の結果、下記の4作品を最終候補作として決定いたしました。
最終選考会は、2019年9月末に行われる予定です。選考結果は、角川文庫キャラクター小説大賞サイトで発表いたします。
作品名一覧
◆沙川りさ「隙間の棲人‐異説・播州皿屋敷‐」
◆尾道理子「毒母の息子カフェ」
◆雨宮周「海棠弁護士の事件記録」
◆結城かおる「涼国賢妃伝 〜路傍の花でも、花は花〜」
1次選考結果発表
第5回 角川文庫キャラクター小説大賞は総数504作のご応募をいただき、第1次選考通過作品42作を決定いたしました。
第2次選考は、2019年8月上旬に行われます。選考結果は、角川文庫キャラクター小説大賞サイト上で発表いたします。
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- 碧井 永
- 善行をつんで地獄にいきます
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- 神原 月人
- 線上のキンクロハジロ―キンクロ・オン・ザ・ライン―
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- 片山 加域
- 凶刃狂想曲
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- 野馬 サイオ
- Hello, My Dear !
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- 隙間の棲人‐異説・播州皿屋敷‐
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- 人喰い悪魔ティモシー・デイモンの捜査
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- 裏表街道(株)野崎誠印堂
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- 芝居小屋のもののけども
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- 祓魔少年黙示録
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- 北岡 雄一朗
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- 空想具を生む手
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- 尾道 理子
- 毒母の息子カフェ
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- ビストロ・カーニヴァル 雉子波 乱 二〇二〇年、僕は世界を滅ぼした――。
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- 修験験記天部繚乱
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- 海棠弁護士の事件記録
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2019年7月18日