第7回 角川文庫キャラクター小説大賞

大賞受賞者

優秀賞/読者賞(優秀賞 賞金30万円)

『姫君と侍女は文明開化の夢をみる〜明治東京なぞとき譚』伊勢村朱音(いせむら・あかね)※「澄田こころ」よりペンネーム変更

《あらすじ》
時は明治5年の東京。湯島聖堂で開催の博覧会で展示していた、家康公愛鳥の鷹の掛け軸が忽然と消えた。
窃盗の容疑をかけられたのは、その掛け軸を政府へ寄贈した元広岡藩の大名・深水家。
当主不在の折に降りかかったお家の一大事に、変わり者の姫君・雪姫と、天才的な絵の才能をもつ侍女の佳代が立ち向かう!
2人の前に立ちはだかるのは、江戸の町奉行所にかわって設立されたポリス。
その中には何やら訳ありな人物もいるようで……?

受賞の言葉

このたびは、優秀賞と読者賞のW受賞という栄誉にあずかり、大変光栄に思います。
そして、選考に携わられたすべての方々に感謝申し上げます。

『姫君と侍女は文明開化の夢をみる』は、「カクヨム」に連載しながら応募した作品です。連載中、コメントやレビューに背中をおされ、書き進めることができました。
執筆とは孤独な作業です。私は公募に長年チャレンジしてきましたが、落選の日々。
そんな中、二年前にWeb小説のカクヨムへ飛び込みました。カクヨムで書くようになり仲間を得たことは、私の執筆生活をかえたのです。
公募にとおらなければ一銭にもならない。それでも、そんな一見無駄なことをしているのは、自分一人ではない。
何度落選してもがんばる仲間たちの姿に、どんなに勇気をもらったかわかりません。
この場をお借りしてカクヨムの仲間たちへ、お礼の言葉をいわせていただきます。
みんな、本当にありがとう!

本作は、日本が大混乱におちいった幕末の暗い影を引きずる東京を舞台にした、明治初頭のものがたりです。
今までの価値観ががらりとかわる変革の時代にあって、もてる才能のみで難事件にいどむ大名家の姫君と、そのお付きのポンコツ侍女。
男性のバディものが多いキャラクター文芸の中で、あえて女性のバディを描くことに挑戦しました。
武士の世が終わり、新しい風が吹く明治時代に、シスターフッドがぴたりとはまるのではないかと考えたのです。結果、このような評価をいただけたということは、うれしいかぎりです。

いま私は、スタートラインにようやく立っているだけです。さらに面白いものがたりをお届けできるよう、これからもがんばり続けます。

最後にもう一度、本当にありがとうございました。

優秀賞(30万円)

『あやし雷解き縁起』吉兼 茅(よしがね・ちがや)

《あらすじ》
神さまだって、子育てします!
非業の死を遂げ、天神となった菅原道真。そんな彼を憐れんだ女神から子をあてがわれ、赤子の育児に奔走することに! 機嫌が悪くなると鬼火を出す赤子に神力を飲ませ、あやす日々。やがて赤子は成長して行夜(ゆきや)という麗しく優秀な青年になった。しかし道真は、陰陽寮で学ぶ行夜が心配でつい過保護になってしまう。そんなある日、道真父子は安倍晴明の息子・吉昌から、自らに寄せられた奇怪な失せ物探しの代理を頼まれる。どうやら物の怪も絡んでいるというが——。

受賞の言葉

ある日、唐突に思い立ち、勢いのままにひとつのお話を書き上げました。理由も根拠も皆無でしたが、きっと書けるはずだと強く感じたのをよく覚えています。

以来、ヨタヨタと覚束ないながらも書き続けてきました。今日まで投げ出さずにこられたのはやはり楽しかったからでしょう。けれど、一作一作と積み上げていくごとに辛さ苦しさも増していったように思います。

ああでもないこうでもない、もうどうしたらいいのかわからない、そもそも全然面白くない……、メソメソと泣き言を漏らしながら原稿用紙の上で不格好な右往左往を繰り返す。おそらく先々延々変わりばえしないのでしょうが、それでも進むのをやめなければ、こんなにも素晴らしい賞を賜る幸運に巡り逢えることもあるようです。この喜びを糧にこれからも足搔いていこうと思います。

今後、拙作が誰かの読書のひとときに加えていただけたなら、これほど幸せなことはありません。より良い物語を創り出せるよう精進して参ります。
最後になりましたが、選考に携わってくださったすべての方々、また支えてくれた家族や友人に心よりお礼を申し上げます。
このたびは本当にありがとうございました。


選評

「盛りすぎには注意を」 荻原規子

 今回の最終選考で、全体として感じたのは、メイン・キャラクターを独自に仕立てようとして、特色を盛りすぎる傾向です。使いこなせないと、かえって人物の輪郭がぼやけ、印象が弱まる危険があることを念頭においてください。
 残念に思いますが、今回は大賞が出ませんでした。

 優秀賞、澄田こころさんの『姫君と侍女は文明開化の夢をみる~明治東京なぞとき譚』は、明治維新の数年後にふさわしい事件や人物を選び、着眼点がとてもよかったです。セリフと地の文のつりあいがよく、メインの人々の言動も効果的でした。人物描写でときどきぶれる箇所があったのと、映像記憶能力をもつ侍女にあと少し深みがほしかったのが、惜しまれるところです。

 奨励賞、吉兼茅さんの『あやし雷解き縁起』は、クライマックスの設定が特に優れていると感じました。けれども、そこに至るまでの伏線にもたつきがあり、主人公の言動が一辺倒に見えてしまいます。神気と瘴気、陰陽師と鬼の差異をもっと整理できると、効果的な演出ができそうです。漢字を多用した文章には一考が必要です。

 井ノ下功さんの『サクラメントと魔法使い』は、イギリスの学生寮生活を楽しげに描くことができていました。ただ、オックスフォードに似た一流大学が舞台なのに、事件や登場人物がそれほど知的に見えません。語り手が数学科の学生ならば、理数系の思考をしないのはおかしいのでは。そして、魔法使いが大学に何を学びにきたのかわかりませんでした。大学生らしさを付与するか、舞台を高校に変えるかの手直しがほしいです。

 浅名ゆうなさんの『皇帝の隻眼』は、事件が近づいてからの緊迫感に筆力があり、ひきこまれます。しかし、主人公があまりに万能で、後宮での姿が像を結びません。そして、話の根幹にある「特別刑務所」に、主人公の都合以外の存在理由が見当たりません。フィクションがどこまで何でもありかの見解はいろいろあるものですが、私個人は「特別刑務所」を容認できず、開設した皇帝をののしる民衆に同感しました。

「キャラクター小説」 中村航

 キャラクター小説というジャンルは、作品によって洋の東西や時代が違い、内容もミステリー、青春、ホラーなど様々だ。一見、同ジャンルの小説とは思えないものも集まるが、これがキャラクター小説というものの懐の深さだろう。選考となると、その多種多様な世界観をどれだけ掘り下げているかが問われ、それはとても重要なのだか、それよりも大きなキーになるのはやはり、キャラクターに魅力があるかないか、だと思う。

 大賞には物足りないが優秀賞としては充分に推せる、と選考委員の意見が一致したのが『姫君と侍女は文明開化の夢をみる~明治東京なぞとき譚』で、なぞとき部分がやや物足りなかったものの、好感度の高い素敵な小説だった。文明開化の時代の東京における、人々の戸惑いや、新しい物事への好奇心や、新しい夢や希望の見つけ方。これらが姫君と侍女を中心として巻き起こる事件のなかで、鮮やかに浮かびあがる。ああ、当時こういうことがあったかもしれないな、と楽しい想像が膨らむ爽快な小説だった。この小説の好感度の高さは、健気で一途でうぶな侍女のキャラクターによるところが大きい。文明開化という時代の過渡期でこそ輝く、秀逸なキャラクター造形だったように思う。

 奨励賞に選ばせて貰ったのは『あやし雷解き縁起』で、キャラクターとしての菅原道真のパパぶりが面白かった。妖しい世界観を破綻なく描く作者の筆力は高く、また親子のシーンには普遍的な美しさがあり、ほろりとさせる。
『サクラメントと魔法使い』は、翻訳調の文体が面白く、それによって語り手のキャラクターが魅力的に映え、また読者は違和感なく魔法の世界に浸れる。ただ物語としての終わり方と、プロローグが弱かったように思う。
『皇帝の隻眼』は本格的な中華の物語で、この世界観が好きな人にはたまらないだろう。ただ、キャラクターの造形にとってつけたような要素が多いのが残念だった。


受賞作品発表

2021年10月13日(水)に第7回 角川文庫キャラクター小説大賞(主催=株式会社KADOKAWA)の選考会がリモート形式にて行われ、選考委員の審査により、下記のように決定いたしました。

受賞作品
優秀賞/読者賞(優秀賞 賞金30万円)
『姫君と侍女は文明開化の夢をみる~明治東京なぞとき譚』澄田こころ(すみだ・こころ)


奨励賞(20万円)
『あやし雷解き縁起』吉兼 茅(よしがね・ちがや)

選考委員:荻原規子(作家)/中村航(作家)/角川文庫キャラクター文芸編集部

第7回 角川文庫キャラクター小説大賞は、515作品の応募があり、第1次選考(32作品通過)、第2次選考(4作品通過)を経た最終候補の中から、受賞作が決定いたしました。受賞作品は角川文庫より2022年春ごろに刊行予定です。


2次選考結果発表

第7回 角川文庫キャラクター小説大賞は総数515作のご応募をいただき、1次選考通過作品32作より、厳正な審査の結果、下記4作品を最終候補作として決定いたしました。

最終選考会は、2021年10月中旬に行われる予定です。選考結果は、角川文庫キャラクター小説大賞サイト上で発表いたします。

作品名一覧
◆浅名ゆうな「皇帝の隻眼」
◆吉兼 茅「あやし雷解き縁起」
◆澄田こころ「姫君と侍女は文明開化の夢をみる~明治東京なぞとき譚」
◆井ノ下功「サクラメントと魔法使い」


1次選考結果発表

第7回角川文庫キャラクター小説大賞は総数515作のご応募をいただき、第1次選考通過作32作を決定いたしました。
第2次選考は、2021年8月中旬に行われます。選考結果は、角川文庫キャラクター小説大賞サイト上で発表いたします。

  • 秋乃水紀
    ツクモガミ乱世
  • 成果島彩
    BEFORE THE DAWWN
  • 村野羊
    「栄養科 馬場動物病院」の事件カルテ
  • 吾郷右京
    屠所の羊もたまには奔る
  • 山梨
    夢先案内人 漂蕩譚
  • 浅名ゆうな
    皇帝の隻眼
  • 夏談深夏
    人間改竄の力を手に入れた僕が、悪魔のような復讐をした話
  • 天乃律
    いとゆう荘よろず屋綺譚
  • 相咲新斗
    こたつでまるくなる理由
  • 秋乃水紀
    東亰血花
  • 水木相馬
    ターフ!
  • 長月秋
    よるのほんやさん
  • 馬上仁奈
    猫は天之比登都柱にまどろむ
  • 神浦七床
    怪盗フェアラート伊藤の冒険
  • 高久來夢
    天坂探偵助手と行く不等価交換の館
  • 吉兼茅
    あやし雷解き縁起
  • 春海柚月
    君ガ為、今日ヲ紡グ
  • 魚土三希
    ガラティアの事件録
  • 澄田こころ
    姫君と侍女は文明開化の夢をみる〜明治東京なぞとき譚
  • てつひろ
    龍の町に星が降る
  • 井ノ下功
    サクラメントと魔法使い
  • 鉈手ココ
    怪速急行、彼岸行き。
  • 明弓ヒロ(AKARI hiro)
    アクトノイド
  • 化野生姜
    Clean・up
  • 伊乙式
    消えない君と、二度目の初恋
  • 花崎有麻
    どうしたら会えますか?
  • 雨地草太郎
    幻狼亭事件 -霊視少女・桃山花乃の怪奇事件録-
  • 山橋和弥
    君は僕がいなくても笑うんだね
  • 櫛名田慎吾(ユーリ・トヨタ)
    転生したら三億円事件の犯人だった!!
  • 雪星セルカ
    ラインパウダーの向こうへ
  • @miumiumiumiu
    心のゆきつき
  • のむらなのか
    窓際神官は月を見上げる