第8回 角川文庫キャラクター小説大賞

受賞の言葉・作品あらすじ

大賞・読者賞

「菊乃、黄泉より参る!」 翁まひろ

《あらすじ》
時は江戸時代。武家の家に生まれた菊乃は、男勝りで正義感あふれる気性から「男姫」と呼ばれていたが、28歳で病死してしまう。ところがその14年後、5代将軍徳川綱吉公の死去から3ヶ月後の世に、なぜか幼子の姿で黄泉がえってしまった! 菊乃は黄泉がえりの理由と成仏(?)の方法を探しながら、「天下の降魔師」を名乗る見目の良い僧・鶴松と、江戸の町を騒がす獣の化け物を退治することになるが……!? 痛快でほろりと泣ける、黄泉がえり幼女×破戒僧バディのお江戸怪異譚!

受賞の言葉

 小学生のとき、はじめて「文庫本」を買いました。
 それまでは、学校の図書室で読む児童書が中心。親や兄がよく読んでいた文庫本は、幼心にも憧れの存在でした。おこづかいで買ったのか、親におねだりしたのかは覚えていませんが、書店でその本と出会った瞬間、世界がキラキラ輝いて見えたのはよく覚えています。
 最初の一冊は、龍や剣士、吟遊詩人や魔法使いが出てくる物語でした。うっかりしたことに、買ったのはシリーズものの第二巻で、知らないキャラクターだらけだったのですが、ページを開いたそのときから、夢中になって読みふけりました。
 それからも、たくさんの本に出会いました。読み終えてしまうのが寂しくて、最後の章あたりで「読みたい」「でも読みたくない」と葛藤を抱えたこともありました。途方もなく贅沢で、楽しい葛藤です。
 自分で小説を書くようになってからは、物語をつくることがいかに大変かを痛感する日々です。だれかの輝く一冊になりたい、だれかの葛藤になりたい……その憧れはあまりに遠く、賞をいただいた今もすこしも近づけた気がしません。それでも、宝物のような小説をつくりつづける皆さまに選んでいただいたからには、自分の可能性を信じ、精一杯、努力していきたいと思います。
 このたびは素晴らしい賞を、本当にありがとうございました。選考に携わられた皆さま、応援してくださった皆さまに深く感謝申し上げます。

優秀賞

「グッドモーニング・ワイズマン」 ヨシビロコウ

《あらすじ》
古の昔、勇者に討たれ息絶える寸前、魔王は復活を予告した。その日に備えて賢者は悠久の眠りにつき……700年が経った。現代日本では、魔法の代わりに科学が発達。しかし魔法やモンスターの事件はいまだ頻発しており、警視庁は「魔法及び魔獣事犯捜査第六課」を設立。第六課所属の刑事で、特殊能力を持つ神島仁悟は、魔獣がらみの事件捜査に日々励んでいる。しかし長い眠りから目覚めた賢者サジュエル・L・ロッシュと出会い、その強大な魔法の力を借りて捜査をすることになり……。新感覚の魔法×警察小説!

受賞の言葉

 ヨシビロコウと申します。この度は素晴らしい賞にご選出いただき有難うございます。選考に携わられた選考委員の先生方、編集部の皆様には深く感謝申し上げます。

 私は子供の頃からいわゆる本の虫というやつで、学校の休み時間は図書室に入り浸り、学生時代にはひと月に数十冊の小説を読み漁っておりましたが、自身で筆を執り本格的に創作を始めたのは10年ほど前からです。
 そしてインターネットで作品を公開するようにはなったものの、ジャンルにこだわる必要なんてない、流行よりもそのとき自分が面白いと思うものを書く、という独善的なスタンスのせいか鳴かず飛ばずでした。
 そのスタンスは今回においても変わらずで、本作はここ数年のキャラクター文芸における人気の潮流とは少し毛色の違った作品かもしれません。それでも確かに面白いと思えるものを書いたつもりで、そういうものをこうして選んでいただけたことは幸甚の至りとしか言いようがありません。

 などと何やら偉そうに述べ連ねてみたものの、私は未だスタートラインに立ったばかりの若輩者です。皆様のご助言とご声援、そして今胸にある感謝の気持ちを忘れずに、粉骨砕身、日々勉強を怠らずに邁進してゆく所存です。
 どうぞよろしくお願い申し上げます。

奨励賞

「鵲の白きを見れば黄泉がえり~死者の手紙届けます」 紙屋ねこ

《あらすじ》
名家の娘でありながら、街外れで代書屋を営む16歳の藍夏月。従者の可不可は口うるさいが生真面目ないいやつだ。ある日、夏月は幽鬼から宛先不明の手紙を託される。そのことばかり考えていた夏月は、泰廟の框に足を引っかけて転び、うっかり死んでしまった! しかし黄泉でも代書屋としてバリバリ働き、冥府の王・泰山府君に気に入られ、生き返ることに。蘇ったのち、ひょんなことから後宮で女官勤めをはじめた夏月は、件の幽鬼の正体を探るうちに、後宮の秘密を知り――。風変わりなお嬢様代筆屋×生真面目従者×黄泉の王が織りなす、中華後宮ミステリ!

受賞の言葉

 コロナ禍の世で死は身近です。誰もが寿命を全うするとはかぎりません。
 突然、死を宣告される物語冒頭の主人公のように、明日がどうなるかわからない。
 今書きたい話は今すぐ書かないとダメだと思いました。

 書きはじめてから泰山府君(たいざんふくん)と夏月(かげつ)のキャラクターがとても気に入ってしまい、この話を世に出したいと強く思うようになり投稿に至りました。
 ひとりで黙々と世界観を作るのが楽しくて、読みやすい文章を心がける以外は、ともかくあまり形式にこだわらないようにしようと自由に書きました。
 過去に受賞された方々、選考委員の先生方が何度か触れておられたとおり、それがキャラクター文芸の魅力、懐の深さなのだと、自分で書いてみて再発見した気がします。

 正直に言えば、書きはじめたときは投稿先を決めていなかったので、人の縁と言いますか、幸運に恵まれて賞をいただけたと感じています。いつも創作の雑談につきあってくれる友だちにも助けられました。本当に感謝しています。
 そして、選考に携わられたすべての方々に厚く御礼申し上げます。
 膨大な作品の中から拙作を拾いあげ、目に留めてくださって、ありがとうございました。
 認めていただいたことを糧にして、より面白い作品を目指したいと思います。

2022年11月22日


選評

「冒険心に期待」 荻原規子

 今回の最終選考に残った作品は、軒並み文章力が高いと感じました。よく書き慣れているかたがたです。作品を読ませる力とは、やはり文章を使いこなす力にあるのでしょう。その上で、既存の流行にはない素材や見解を扱う冒険心を見せてほしいです。

 大賞、翁まひろさんの『菊乃、黄泉より参る!』は、文章が巧みで人物にもユニークさと魅力がありました。類型を超えた、ここだけの人物を活かすことに成功しています。「生類憐みの令」廃止直後の江戸という目の付けどころ、子どもとして黄泉がえった菊乃と悪霊退散の破戒僧の組み合わせに、秀逸さを感じました。敢えて難を言うとすれば、黄泉がえりの種明かしとラストが少し軽すぎて見えるところでしょうか。

 優秀賞、ヨシビロコウさんの『グッドモーニング・ワイズマン』は、大賞作品に劣らない文章力をもっています。ただ、ユニークな世界構成がこなれきっていない感がありました。ドラマで人気のある特捜警察ものを、現代日本にエルフやドワーフがいる設定で展開させるお話ですが、殺人事件の一つ一つは巧妙でおもしろく読めるものの、このような現代社会が成立するための詳細設定が今一つ足りていません。あと少し独自の本当らしさが欲しかったと思います。

 奨励賞、紙屋ねこさんの『鵲の白きを見れば黄泉がえり~死者の手紙届けます』は、これも練達した文章の作品でした。しかし、なぜか途中で冗長に思えてしまいます。主人公の動じない性格や行動が芯の通ったものに見えず、読むにつれてばらばらに感じるからです。付加したものが多すぎたかもしれません。ストーリーは後宮の霊廟へ行ってから迫力を増し、その設定がユニークで感心できるので、配分を変えてみるとさらにおもしろくなりそうです。

 蔵重亜桜衣さんの『霊獣後宮物語』は、楽しいラブコメとして好感のもてる作品でした。文章に勢いがあります。そして、勢いあまってか、三人称の叙述のなかに数カ所、一人称がまじります。これは小説を書く上でしてはならないことで、軽い気持ちで見過ごさないでください。また、後宮が完全に形骸化しているので、この話で皇帝を扱う必要があったかどうかを再考してください。架空の国の話だから、王国にしてもよかったのでは。仙の山の生活が成り立つかも疑問なので、背景に本当らしさがあるとラブコメがさらに映えたと思います。

「オリジナリティ」 中村航

 オリジナリティを追求する、という命題はクリエイターなら誰でも持っているだろう。だけどオリジナリティを出すのって難しいよな、と多くのクリエイターが思っていたりする。
 文字で物語る、という、とてつもなく偉大な一歩があって、それとは少し違う二歩目や三歩目があって、やがて小説という名前ができて、膨大な数の作品が生まれてきた。オリジナリティなんてもう出せないよな、と思うのも当然だけど、それでもやっぱりクリエイターが追求する限りオリジナリティは生まれる。今回、この賞を通じて読んだ四作品も然りだ。キャラクターと世界観と題材の組み合わせによって、まだまだオリジナリティは生まれる。まずは最終選考に残った四作品に拍手を送りたい。
 大賞に選ばせてもらったのは『菊乃、黄泉より参る!』。主人公の思考・発言・行動がひたすら爽快で魅力的で、一気に読ませる好感度の高い小説だった。出だし(一行目)から素晴らしい。例として相応しいかわからないが、夏目漱石の『坊っちゃん』を読んでいる感覚になった。七歳の主人公が吹き込む新風を、ぜひ多くの人に感じてもらいたい。
 優秀賞の『グッドモーニング・ワイズマン』は、剣と魔法のファンタジーと刑事物を組み合わせたような、新感覚の小説だった。過去からよみがえったワイズマン、というキャラクター設定が存分に活かされ、面白い仕掛けがいくつもあった。キャラクターの魅力は、性格や言動よりもこういった構造にこそ宿るのかもしれない。
 奨励賞の『鵲の白きを見れば黄泉がえり~死者の手紙届けます』は、非常に良くできた佳品で、作者の高い筆力を感じた。大賞・優秀賞に届かなかったのは、オリジナリティが上位二作と比べるとやや薄かったからかもしれない。あとこれは重要なことだと思うのだが、主人公が叶えることができる願いが三つというのは、多いのではないかと思った。
『霊獣後宮物語』は、ラブコメとしてはとてつもなく面白かった(コミカライズしたい!)。小説としては、視点のブレがあったりメタ的なツッコミがあったりと自由で、こういうのは許容する読者としない読者がいるだろう。終わり方も強引だが、それならもっと破天荒な結末にしてもよかったのではないだろうか。

2022年11月22日


受賞作品発表

2022年10月27日(木)に第8回 角川文庫キャラクター小説大賞(主催=株式会社KADOKAWA)の選考会がリモート形式にて行われ、選考委員の審査により、下記のように決定いたしました。

受賞作品
大賞/読者賞(大賞 賞金150万円)
『菊乃、黄泉より参る!』翁 まひろ(おきな・まひろ)

優秀賞(賞金30万円)
『グッドモーニング・ワイズマン』ヨシビロコウ(よしびろこう)

奨励賞(賞金20万円)
『鵲の白きを見れば黄泉がえり~死者の手紙届けます』紙屋ねこ(かみや・ねこ)


選考委員:荻原規子(作家)/中村航(作家)/角川文庫キャラクター文芸編集部

第8回 角川文庫キャラクター小説大賞は、519作品の応募があり、第1次選考(57作品通過)、第2次選考(4作品通過)を経た最終候補の中から、受賞作が決定いたしました。受賞作品は角川文庫より2023年春以降に刊行予定です。

2022年10月28日


2次選考結果発表

第8回 角川文庫キャラクター小説大賞は総数519作のご応募をいただき、1次選考通過作品57作より、厳正な審査の結果、下記4作品を最終候補作として決定いたしました。

最終選考会は、2022年10月下旬に行われる予定です。選考結果は、角川文庫キャラクター小説大賞サイト上で発表いたします。

作品名一覧
◆ヨシビロコウ「グッドモーニング・ワイズマン」
◆翁 まひろ「菊乃、黄泉より参る!」
◆蔵重亜桜衣「霊獣後宮物語」
◆紙屋ねこ「鵲の白きを見れば黄泉がえり~死者の手紙届けます」

2022年9月08日


1次選考結果発表

第8回角川文庫キャラクター小説大賞は総数519作のご応募をいただき、第1次選考通過作57作を決定いたしました。
第2次選考は、2022年9月上旬に行われます。選考結果は、角川文庫キャラクター小説大賞サイト上で発表いたします。

  • 夏葉玲
    フレイグラント・オーキッズ!~香蘭の乙女たち~
  • 碧井永
    術師たちの沈黙
  • 泉いおり
    麗人後宮伝
  • 星川灯莉
    むすめ浄瑠璃 浅草あやかし芝居
  • 伊豆田富弘
    魂×魂(こんこんと)
  • 伊豆田富弘
    血が騒いだ嘘八百は泡を食った
  • 宮河小川
    こぐち雑貨店のパンダ店長
  • 宮沢泉
    天神に捧ぐ
  • じゅん
    夢追い人のシェアハウス
  • 斎木マコト
    スーパー楓号、東へ西へ
  • 迎ラミン
    スナッチ!
  • 川辺実歩
    平安京オブリージュ
  • おこばち妙見
    コバルトの残照
  • 零真似
    歳喰いパラダイム~金科玉条~
  • 戸越泉宮
    探偵 小日向すみれの違和感ー終わりの先の願い玉ー
  • 戸越泉宮
    有坂まよいの研究ノート
  • 小桃
    朔月の君
  • 桜木澪
    ワンダフル・リライフ
  • ヒスイミサ
    探偵メノウと沈黙者
  • 馬上仁奈
    縫司奇譚
  • 萩野間湊
    扶桑妖狐譚
  • ヨシビロコウ
    グッドモーニング・ワイズマン
  • 奈胡めぐみ
    ティールームは魔女の庭
  • 佳倉冷
    女子高生棋士、命がけの勝負に巻き込まれる
  • 小達出みかん
    女神様のためのおいしい料理帖
  • 雨矢鳥日済
    夏の指先が結ばれる頃に
  • 有村しょうが
    明治るろう奇譚
  • 來田つむぎ
    ビスポークの文具店
  • 翁まひろ
    菊乃、黄泉より参る!
  • @sazare220509
    幽世の花嫁
  • チクチクネズミ
    墓荒らしジョーンズの事件簿――大英帝国屍体騒乱記――
  • 雨傘ヒョウゴ
    赤い糸が見えるけど、私の運命の人にはもう彼女がいた
  • 怜怜
    後宮に住む吸血師尊
  • 空草うつを
    新米守護隊エラ・ジェラルドの捜査報告 ―巡―
  • 蔵重亜桜衣
    霊獣後宮物語
  • 相沢泉見
    仏か鬼か 修行僧、怪奇ニ遭遇セシ事
  • 桧口りょう
    幽霊は二度ほほ笑む
  • 山田ツクエ
    スクールカースト・ストライカー
  • 白鷺緋翠
    ようこそ、蝶の舞う花園へ。
  • いとうみこと
    魔法使いメグとデブ猫ゴン太の公務員日誌
  • 月野璃子
    漆黒の残酷童話
  • げえる
    ダイナマイトは弧を描く
  • 柳なつき
    人殺しと犬
  • 雨 杜和orアメたぬき
    【完結】聖女と悪魔:修道長マザー天神ノ宮の朝は祈りからはじまる
  • 青島ロジ
    リエラリドル 遠州クリークの秘密
  • 味噌醤一郎
    おかえり私の探偵
  • 藍川竜樹
    トリップしたら悪魔なご領主様に囚われました(時の向こうの婚約者)
  • 고성남
    イナゴ身重く横たわる
  • gaction9969
    不完全×シン→メ↓ト←リ↑カ→ルの匣
  • ヒダカカケル
    神居村へ、初めての夏を
  • 矢田川いつき
    そして命が輝いたから
  • 水玉猫
    こねこ初恋~お菓子で出来た世界の終わり~
  • とうがけい
    蒼キ龍ノ覇道
  • 七緒亜美
    PHANTOM HEAVEN 電脳空間捜査官・兎羽野 忍の挨拶
  • 紙屋ねこ
    鵲の白きを見れば黄泉がえり~死者の手紙届けます
  • 四谷軒
    西の桶狭間 ~毛利元就の初陣~ - rising sun -
  • 七海まち
    魔力回収機構 終末のアトリビュート

2022年7月22日